幽閉、若しくは彷徨 十

テーマ ・ プライベート♪ カテゴリ ・ 思索 #809
――うむ。《反体》か……。反物質はこの宇宙の何処かに必ず存在してゐるに違ひないが、しかしながら物理学の世界ではCP対称性の破れによって僅少しか存在しないと言はれてゐるけれども、しかし、《反体》は《実体》と何にも変はらないんじゃないか? 


――だから何度も言ふやうだけれども俺は唯存在若しくはこの宇宙を一寸でもあっと言はせて転覆させたいだけなのさ。先づは物質と反物質との反転! 此処から始めないと話にならん。


――そんなことじゃ、宇宙は、お前の言ふ悪意に満ちた宇宙はせせら笑ってゐるんじゃないか? とてもそんなことじゃ宇宙を震へ上がらせることなど土台無理さ。


――それはどうかな? 


――だって反物質も此の世に《存在》する存在物の一つに過ぎないじゃないか! 


――存在じゃないさ。《反=存在》だよ。


――ん? 《反=存在》? 


――非在じゃないぜ。《反=存在》だぜ。


――しかしだ、《実体》と《反体》が出会ふと……。


――さうさ、対消滅さ。だが……吾は巨大な巨大な巨大なγ(ガンマ)線を放出し、大量の、それこそ無限と言ってもよいかもしれないが、大量の大量の大量のEnergie(エネルギー)体たる光となってこの宇宙を嘲笑ふことがもしかすると可能かもしれないぜ。まあ、それはそれとして、先づは《反=存在》だ。お前は《反=存在》をどう思ふ? 


――意識、ちぇっ、つまり、《反=意識》によるんじゃないかな、《反=存在》は。


――愚門なのだが、《反体》においても「吾思ふ、故に吾あり」は成立するんだらうか? 


――ぷふぃ。何を言ってゐるんだい? 《反体》を持ち出したのは其方じゃなかったっけ? 


――それはさうなのだが、本当のところ、俺にもまだ《反体》なるものが良く把握できていないんだ。まあ、それはそれとして、なあ、《反体》においても「吾思ふ、故に吾あり」は思念出来るとお前は直感的に思へるかい? 


――ふむ……。当然、考へられるんじゃないか、《反体》においても。


――その前に、なあ、先づは《反体》においても《吾》なる思惟は生成されるのであらうか? 


――当然、存在、ちぇっ、《反=存在》するだらう。


――すると自意識による蟻地獄ならぬ《吾地獄》といふ我執の陥穽に《反体》もまた落ちてゐるのであらうか? 


――逆だぜ。落ちてゐるんじゃなくて、多分、吾は《吾地獄》へ昇天してゐるに違ひない。


――ん? 昇天? それはまたどうして? 


――《反体》故にさ。


――つまりそれは則天無私といふことかね? 


――正解でもあるが不正解でもある! 


――どういふことだ? 


――先づは《反体》をでっち上げでもいいから想像してみるんだな。お前はそもそも《反体》をどう思ひ描いてゐるんだ? 


――多分だが、《反体》は此の世の特異点に《反=存在》するに違ひない。否、《反体》は特異点にのみ《反=存在》する……。


――それって、つまりはBlack hole(ブラックホール)の内部といふことかね? 


――へっ、Black holeの内部も一つの候補だが、少し飛躍的な物言ひだがもう一つこの宇宙そのものも《反体》が《反=存在》する特異点に違ひない。


――へっ、《反体》が《反=存在》する《反=世界》にも神はゐるのかな。


――《反=神》が《反=存在》するかもね。


――へっ、其処では《天国》と《地獄》は《婚姻》してゐるのかな? 


――ブレイクか……。


――へっ、《反=世界》は吾等が浄土と呼んでゐるところかもしれないぜ。


――うむ。浄土は《物質》と《反物質》、或ひは《実体》と《反体》が出会った時に現はれ、巨大な巨大な巨大なEnergie(エネルギー)を放って対消滅するその事象のことなのかもしれぬ……。


(十の篇終はり)

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