幽閉、若しくは彷徨 十四

テーマ ・ プライベート♪ カテゴリ ・ 思索 #849
――さて、此の世の諸相が全て主体次第だとすると、主体は暴走するんじゃないかね? 


――へっ、既に暴走してゐるじゃないか! 


――やはりお前も既にと思ふか……。


――でなければ主体は物体を奴隷として扱ひはしないんじゃなにいかね、ん? 


――物を単なる消費財として扱ってゐる一方で、主体は物体を愛でるぜ。


――ふっふっ、消費財だと? だから主体は客体に押し潰されるのさ。


――客体に押し潰される? 


――へっ、既に主体は客体たる製品を使ひこなせずに製品に使はれてゐるじゃないか! 


――その主体とは《人間》のことか? 


――否、此の世の《存在》全てだ! 


――此の世の《全存在物》が「吾は!」と自己主張し我を張り始めてゐるとでも考へてゐるのかい? 


――さうさ。既に《主体》は《客体》などお構ひなしに暴走を始めてゐる。その一例として《人間》があるに過ぎない。


――何時の頃から《主体》は「吾は! 吾は! 吾は!」と我を張り始めたと思ふ? 


――さてね。しかし、お前が《反体》をでっち上げなければならない程、《主体》は《主体》によって、つまり《主体》たる《客体》に押し潰されてゐるのは間違ひない。


――《主体》たる《客体》? 


――さう。《主体》たる《客体》だ。


――つまり、《主体》は何時でも《客体》にその様相を変へるといふことか? 


――ふっ。《自分》以外は全て《客体》だからな。しかし。それだけじゃないぜ。吾が《自己》と考へてゐるもの自体がそもそも客観的に吾の思考に浮かび上がって来る不思議をお前は何と説明する? 


――頭蓋内の闇には既に《反体》の兆しがあると? 


――さうさ! 兆しどころか《反体》か棲んでゐるじゃないか。


――お前は既に頭蓋内の闇には《実体》と《反体》の共存が成立してゐると? 


――へっ、弁証法とはそもそも何だね? もっと簡単に言ふと《心の葛藤》とはそもそも何だね? 《主体》がそもそも綻んでゐる証左じゃないかね? 


――ふっ、お前は《主体》はそもそもからして綻んでゐると? 


――さうさ。《完璧》な《主体》は、さて、宇宙史上此の世に現はれたことはあるのかい? 


――《完璧》な《主体》とは、つまり、《神》のことかい? 


――別に神でなくとも結構さ。何でも構はないから宇宙史上《完璧》な《主体》が存在した可能性は、さて、確立にすると幾つかね? 


――……零さ――。《主体》が《完璧》であってはならない! 


――へっへっへっ、それは何故だい? 


――時間が移ろふからさ。


――それじゃあ、時間が止まれば《完璧》な《主体》は此の世に出現するのかね? 


――時が止まった世界で《完璧》を問ふことに何か意味があると思ふのかい? 


――へっへっへっ。無意味だね。時間が止まれば《完璧》もへったくれもありゃしない! それ程までに《存在》にとって決定的な存在たる時間が一次元である筈がないと思はないか? 


――ああ、実際Analog(アナログ)時計では長針と短針は回転、つまり、渦を巻いてゐるね。


――今になって時間を一次元に押し込めた弊害が目立って、綻んで来た《時代》はないね――。


――やはり綻んでゐるかね? 


――ああ。《実体》と《反体》が共存するには時間の位相も諸相あっていい筈さ。


――つまり時間もまた無限の相を持つと? 


――つまり三輪與志ならぬ皆善しといふことさ。


――何を地口で遊んでゐる! 


――それそれ、その生真面目さが時間を一次元へと押し込めた張本人だぜ、へっ。


(十四の篇終はり)


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